妊婦の血液から胎児の染色体を調べる新出生前検査(NIPT)とは、一般的に妊娠10週以降の妊婦の血液から胎児の染色体異常を調べる検査です。血液中に存在する胎児のDNAの断片を解析し、通常2本1組で計46本ある染色体の数を調べます。検査は日本医学会などが認証した医療機関で受けられます。現状では成長や発達の遅れなどが生じる3つの染色体に限定されており、ダウン症(21トリソミー)、エドワーズ症候群(18トリソミー)、パトウ症候群(13トリソミー)のリスクを調べます。
公的医療保険の対象外で、1回の検査費用は平均10万円以上かかります。以前は35歳以上という年齢制限がありましたが、2022年に日本医学会が年齢制限撤廃する方針を示したことで検査対象が拡大しました。2023年度の認証施設も全体で478施設と、2022年度の375施設と比べて大幅に増加しています。日本医学会が認証する全国の大学病院など14施設の研究チームは、検査する染色体の対象を従来の3つから、全ての染色体に広げる臨床研究を準備しています。
NIPTは、あくまで可能性を絞るスクリーニングの検査で確定診断ではありません。陽性判定が出たとしても、必ずしも胎児に染色体異常が起きている訳ではありません。あくまで異常の可能性があるで、検査精度は年齢に応じて変化し、特に13トリソミーでは陽性の的中率が25歳で16.7%と決して高くありません。そのためにNIPTを実施後は、どの程度将来を予測できる情報なのか、適切に情報提供する仕組みの構築が大切です。妊婦や家族への丁寧な説明、子育てを支援する環境や制度を紹介するといった不安を取り除くためのカウンセリングやケアも欠かせません。
厚生労働省の研究班の調査によれば、日本医学会などの認証を受けていない無認証の施設によるNIPTで検査後の説明が不十分で不安になったなどのトラブルも報告されています。認証を受けずに出生前検査をするクリニックは、全国に100施設以上あるとされています。全ての染色体を検査すると広告を出すクリニックなどもあります。認証を受けた施設で、認定遺伝カウンセラーや臨床遺伝専門医などに相談することが勧められます。
NIPTは採血だけで誰でも簡単にできる検査となっています。妊娠が中断される可能性や先天性疾患を持つ子どもたちの存在を否定する考えが広がることなど、社会面、倫理面から懸念の声も出ています。個人によって価値観や状況は異なります。医療機関には、妊婦らに十分な情報と選択肢を提示できる体制と、個人の選択を尊重し支援する仕組みが必要となります。
(2025年5月24日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)