残業時間の罰則付き上限規制や有給休暇取得の義務化などを含む働き方改革関連法が、2019年4月以降順次施行されます。2017年の日本の1時間あたり労働生産性は、47.5ドル(購買力平価換算で、4,733円)で、経済協力開発機構(OECD)加盟36カ国中20位と計測されています。この水準は米国の3分の2程度にあたり、データ取得可能な1970年以降、主要先進7カ国で最下位の状況が続いています。就業者1人当たりの年間労働生産性は、8万4,027ドル(837万円)で、OECD加盟国中21位となっています。日本経済をけん引してきたとされる製造業についても、就業者1人当たりの年間労働生産性は15位で、2016年から順位が低下しています。
図は、米国の生産性を100として横軸に従業者1人当たり、縦軸に1時間当たりの生産性をプロットしたものです。実線は近似線、破線は45度線であり、日本はこれらの線上に位置します。時間当たりの生産性を計算する際の分母は、パートを含む全労働者の数字であること、統計がカバーする労働者の範囲や労働時間のとらえ方が、国により違うことなどに注意が必要ですが、平均的に見る限り、日本は国際標準から外れた異常値ではありません。デンマーク、ドイツ、ノルウェーといった45度線の左上に位置する国は、時間当たりの生産性が相対的に高くなっています。所得水準が高い国ほど余暇の価値が高いので、労働時間が短くなります。
生産性向上のためには、無駄な会議や稟議の削減、業務の段取りの改善、意思決定権限の委譲、意義の乏しい社内ルールの見直しなど、生産に直接結びつかない労働投入を減らすことは、企業現場の生産性を高める上で有効です。同一労働同一賃金も働き方改革の一つですが、パート労働者の賃金水準は、生産性とほぼ完全に一致しています。平均的に見る限り、パート労働者の賃金は、生産性に見合わない低水準に抑制されているわけではありません。非正規労働者の生産性・賃金を引き上げるには、スキルアップのための教育訓練や自己啓発を促すような人事・労務管理などの対応が必要です。
一般に生産性向上の2大エンジンは、技術革新と労働力の質の向上です。しかし、日本の研究開発集約度は、米国よりも高いし、学力やスキルの国際比較調査からみて、日本の人的資本の質はトップレベルです。つまり、これらで日米生産性ギャップを説明するのは難しいものがあります。
日本の1時間当たりの労働生産性は、OECD加盟国中20位で、主要7カ国では最下位です。将来にわたる労働力の減少が明らかな日本で、生産性の向上が、経済規模の維持・拡大のほぼ唯一の方策であることは間違いありません。低生産性企業の退出、高生産性企業への資源の移動、対内直接投資や外需の呼び込みなど、生産性向上に向けた施策が必要になります。
(2019年3月5日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)