生理学・医学、物理学、化学の自然科学分野では、日本人ノーベル賞受賞者は22人います。湯川秀樹氏が1949年に物理学賞を受賞してから半世紀は計5人でした。2000年に白川英樹氏が化学賞を受賞すると急増しました。21世紀以降は19人で、米国の次に多くなっています。近年の受賞ラッシュは1980~1990年代までの研究環境による成果と言えます。資金は必ずしも潤沢ではなかったのですが、大学などでは思う存分研究に専念できていました。
2004年の国立大学の法人化以降、基盤的な資金である運営費交付金が削減されてきました。人件費抑制のため、多くの大学が常勤の教職員を減らしたことにより、雑務に追われ、研究時間が減っています。また、若い研究者は任期付きの雇用が増え、博士課程への進学者が減りました。深刻な科学力の低下を招いた大きな要因と言えます。
日本の科学力の低下は、引用回数が上位1%の論文でみると顕著です。引用の多い論文は世界の研究者が注目しているからで、急激に回数が伸びた論文はノーベル賞につながる傾向があります。科学技術・学術政策研究所によれば、引用数が上位1%の論文で、日本は世界12位です。2000~2002年は4位で、急速に順位を落としています。 日本は、長引く経済の低迷で予算を有効に使おうと、研究テーマの選択と集中で競争を促しました。ノーベル賞受賞者は、少額で良いから好奇心に基づく研究ができるようにしてほしいと訴えています。科研費を増額し、多くの研究者に助成する方が有効だとみられます。国は10兆円ファンドを作って、トップ校の支援に乗り出しています。しかし、基礎研究は有力大学だけでやれば良いわけではありません。
(2025年1月20日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)