日本の研究力の低迷

日本の研究力が低迷する要因として、研究者の忙しさが指摘されています。大学の研究者は、教育や診療、社会貢献も求められます。2018年度の文部科学省の調査によれば、教授や助教などの年間職務時間は2,500~2,670時間です。国家公務員の勤務時間法や人事院の総超過勤務時間に関する実態調査などから比較すると、職務時間は官僚と同等以上とみられています。そのうち研究時間は約33%で、2002年度の約47%から大幅に減っています。残りは教育が3割弱、社会サービス活動が約2割、学内事務が2割弱です。
政府が大学に配る運営費交付金から各教員に回る資金は、光熱費などでほぼ消えてしまうため、十分な研究費を得るには公募で選ばれなければなりません。政府が優れた研究テーマに研究費を与える競争的研究費に複数応募するのが一般的ですが、1つ出すのに約2週間、毎日2~3時間とられるほど手間がかかります。医師の研究者の場合には、大学病院での診療も大きな負担となっています。
日本の研究力の低迷も、失われた20年と表現されます。文部科学省科学技術・学術政策研究所が2023年8月にまとめた科学技術指標によれば、研究力の指標となる論文の本数を国別でみると、直近では5位、論文の質を示す引用回数が上位10%に入る論文の数は13位でした。2000年にはそれぞれ2位、4位でした。
研究時間をフルタイムに換算した研究従事者数であるFTEの低迷が関係しています。研究者の総数は2014年比で7.4%増えましたが、研究に充てる時間が減り、FTEでは0.5%しか増えていません。国家公務員総定員法や大学院重点化、国立大学の法人化、新医師臨床研修制度などにより、教員や予算が減り、若手研究者の減少や教育の負担増などをもたらし、FTEの低下につながっています。
政府は、研究力低下の要因を大学の生産性の低さに求めました。向上策として、国際共同研究や産学連携など様々な評価指標を導入し、評価に基づく研究費の配分などを進めました。しかし、結果として学内の雑務や手続きが増え、研究者から時間を奪うことになってしまいました。教育と研究を分離する改革が必要です。また事務などの代行者が求められますが、必要なところに手が届いておらず、研究に集中できる仕組み作りが急務です。

(2023年12月18日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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