日本で将来のノーベル賞候補となるような先端研究人材が減っています。世界で注目される論文数はピークから2割近く減り、国別順位で12位と2000年代前半の4位から後退しています。優れた成果を出す研究者も2014年から半減し、躍進する中国との差は広がっています。日本発の科学革新が生まれにくくなっており、科学技術振興策や人材育成の見直しが急務となっています。化学や材料など日本の得意分野でも存在感が薄れています。
英調査会社クラリベイトによれば、物理や化学などの21分野で、他の研究者から引用された回数が上位1%の論文を過去10年に複数執筆した研究者は、日本が2022年に54人で、2014年から半減しています。主要国で大きく減らしたのは日本のみで、中国が4倍、オーストラリアが3倍、韓国が2倍に増えたのとは対照的です。論文数でも日本の地位低下が進んでいます。被引用回数が上位10%の注目論文数で、日本は、1980年代前半~1990年代初めに米英に次ぐ世界3位でした。1990年代にドイツ、2006年に中国に抜かれ、2019年には12位に下がりました。注目論文数は約3,800本とピークから2割弱減っています。
一般に研究成果を上げてからノーベル賞を受賞するまでに20~25年はかかります。日本は、21世紀に入り米国に次ぐ19人が受賞しましたが、ほとんどは1980~1990年代の業績が評価されています。2010年代以降に日本の研究成果が低迷しているのを踏まえると、2030年代以降に受賞が大幅に減る恐れがあります。
日本は、2004年の国立大学法人化で、政府が大学に配る運営費交付金を毎年1%減額したうえで、大学の裁量を増やし競争を促しましたが、研究力は低下しました。若手研究者の待遇や研究環境も悪化しています。大学の正規教員に占める25~39歳の割合は、2019年度に22%と1990年代の3割超から減っています。博士号取得者は2019年度に1万5,100人と、人口が半分以下の韓国に抜かされています。博士号取得者は各国が育成し、米国や中国も約20年間で2倍以上増えています。
政府は、巻き返しに向け10兆円の大学ファンドを創設しました。年3,000億円と見込む運用益を使い、選抜した数校を支援し、若手支援や国際連携も強化します。日本の研究力の再興に向けた最後のチャンスです。先端研究は国力を左右します。
(2023年3月5日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)