賃金が上がらない国におけるiPhoneを始めとする機器の負担が重くなっています。経済協力開発機構(OECD)などのデータでみると、日本で最高だった1997年の実質賃金を100とすると、2020年秋時点で日本は90.3と減少が続いています。米国は122.2、英国は129.7、韓国は157.9です。米アップルのiPhoneを購入する際の負担感を比べると、日本の消費者の辛さがよく分かります。最新のiPhone12 Pro Max(データ容量は512GB、ギガは10億)の値段は、日本人の平均月収の約45%を占めています。一方、米国は25%に過ぎません。iPhoneの性能向上に伴う単価の上昇が、賃金が伸びない日本に重くのしかかっています。
モノもサービスも、賃金も安くなったニッポンは、物価上昇の波に向き合えるのかが問題となってきます。グローバル需要で決まる企業物価と、内需で決まる消費者物価のねじれが大きいにもかかわらず、企業は製品に価格転嫁できません。調達コストの吸収へ人件費の切り詰めに動き、非正規など労働者にしわ寄せが及んでいます。その結果、消費も伸び悩み企業収入も低迷する悪循環が続いています。製品の付加価値を高めて値上げし、グローバル企業は、賃上げにつなげています。この常識が通じない日本にインフレの波が押し寄せてきています。
(2021年6月22日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)