日本経済の地盤沈下

 日本の経済は深刻なデフレや少子高齢化などが重なって、バブル崩壊後の失われた30年と評される今の苦境があります。豊かさの指標と言われる人口1人当たりのGDPで見ると、1990年代以降の日本は、過去300年余りで3度目の深刻な凋落を経験しています。覇権国とのギャップが著しく拡大するのは江戸時代の末期、第2次大戦の前後に続く現象です。過去2回は鎖国や戦争の影響で技術の格差が広がりました。今回は資本蓄積の遅れや労働の質の低下も目立っています。

 日本経済研究センターの長期経済予測によれば、実質GDPの世界ランキング(83カ国・地域)を試算すると、日本は2024年の4位から、2075年には11位に後退するとされています。1人当たりの実質GDPでは、29位から45位に順位を下げ、中位グループに埋没する結果となります。AIの普及や移民の拡大、雇用制度の見直しなどに取り組み、とりわけ労働力人口1人当たりの生産性を引き上げる努力が必須となります。

 経済・軍事両面の国力を測る簡便な指標として、GDPと1人当たりGDPとの積が注目されています。日経センターの長期予測を基に、実質GDPと1人当たり実質GDPとの積を試算すると、日本は2024年の5位から、2050年には8位、2075年には14位に後退するとされています。いずれも首位は米国で、中国、ドイツ、英国が続いています。2位以下を大きく引き離す米国を100とした場合、日本は6.2から3.6、2.6に低下します。労働力人口の比率を維持し、1人当たり・1時間当たりのGDPを極力増やさなければなりません。

 環太平洋経済連携協定(TPP)を含む自由貿易圏の拡大・深化、グローバルサウスの発展を見据えた供給網の再編や販路の開拓、AIや脱炭素などへの投資を通じた既存産業の強化と新規産業の育成など、官民がともに知恵を絞り、これらの具体化を急ぐべきです。

(2025年4月19日  日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

カテゴリー: what's new   パーマリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です