旧姓の通称使用拡大

 結婚後の姓をめぐって、選択的夫婦別姓と旧姓の通称使用の拡大が話題になっています。結婚すると夫婦で新しい戸籍をつくりますが、どちらかが姓を変え、夫婦は同じ姓にしなければならないのが今の制度です。選択的夫婦別姓は、結婚後も夫婦が望めば、別々の姓のままでいられます。一方、旧姓の通称使用の拡大は、結婚後夫婦は同じ姓にする制度は維持したうえで、旧姓を通称として広く使えるようにするものです。

 姓を変えると、様々な手続きの手間や金銭的・精神的な負担がかかり、さらにアイデンティティーが失われる、日常生活や仕事で不便といった指摘が長年あがっています。法律上どちらの姓にそろえるかは自由ですが、2024年の時点で、実際に姓を変えたのは女性が約94%と圧倒的に多くなっています。

 法制審議会は、1996年に選択的夫婦別姓を導入する答申をまとめています。この時、選択的夫婦別姓のほかに、旧姓の通称使用拡大の案も検討されましたが、答申では却下されました。夫婦同姓なのは日本のみです。米国や英国、ドイツでは同姓か別姓かを選べるほか、フランス、韓国、中国では原則別姓です。

 2019年に住民票やマイナンバーカードに戸籍上の姓と旧姓を併記できるようになりました。2017年に政府が公表した調査によれば、約4,700の企業のうち49.2%が旧姓使用を認めています。しかし、あくまでも便宜的なもので、戸籍上の姓が求められるケースが残るほか、海外では理解されづらくなっています。改姓によるアイデンティティー喪失の課題も解決されていません。

(2025年12月4日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)

カテゴリー: what's new   パーマリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です