出生率のデータが公表されると、東京都は毎年決まって47都道府県最下位となります。出生率の低い東京に多くの若者が集まれば、少子化がますます進み、人口減少が加速します。流れ反転させ地方消滅を回避するには東京一極集中の是正が急務であるとの認識が、地方創生の取り組みを支える基本的な構図とされてきました。
東京が出生率が低いとされる時に参照されるのは、合計特殊出生率という指標です。この指標の分母となる女性人口には未婚女性も含まれます。このため進学や就職で若年女性の転居を伴う移動が生じると、流入の多い地域は出生率が低めに、流出の多い地域は出生率が高めに出ることになります。
15~29歳と30~49歳に分けて年齢層ごとに合計特殊出生率の内訳をみると、30~49歳は全国・東京都・東京都区部でほとんど差がないのに対し、15~29歳では大きな違いがみられます。10代後半と20代前半は全国でみても女性の未婚率が9割を超えているから、未婚女性が多く流入する地域ではおのずと出生率が低くなります。20代後半も未婚率が6割を超えているから同様の傾向が生じます。20代後半では、東京都で大卒・大学院卒の女性の割合が非常に高くなっています。一般に学歴が高くなるほど初婚が年齢が高くなるから、東京都で20代後半の女性の未婚率が高く、出生率が低くなるのは当然です。
東京一極集中と少子化問題を安易に結びつけることは避け、両者を分けて考えるほうが良いと思われます。出生率の地域差は人口移動の結果として生じるもので、なぜ若年層の多くが、地元を離れて東京に行ってしまうのかということが問題の根底にあります。東京への憧れのほか、地方には性別役割分担意識が残る地域があります。もう一つは雇用の問題です。キャリア形成を目指し専門性の高い職種への就業を希望しても、地元にふさわしい仕事がなければその人は転出してしまいます。多様な職種への就業機会の有無は都市規模によって規定される面があるから、都市規模に応じた十分な就業機会が確保できないと若年層の流出は止まりません。
東京一極集中を是正する観点からは、札幌・仙台・広島・福岡など各地域の中枢・中核都市への集積を進め、東京に対抗できる都市をつくる必要があります。東京が担っている高次の都市機能を分担できる都市が無ければ、首都直下地震の発生などで首都消失が生じた場合に、日本全体が大きなリスクにさらされることになります。東京に対抗できる都市をつくることは、地方から東京へという人の流れを変え、各地域ブロックが自立した経済圏を確立していくうえで大切です。
大学進学を機に多くの若者が地元を離れてしまうことを考えると、教育を受ける機会の地域間格差も解消しなくてはなりません。地方国立大学に対してこれまで採られてきた緊縮的な対応を見直し、教育・研究環境の改善を進めていくことが必要となります。これは人的資源の地域間格差の縮小にも資することになります。
(2025年1月21日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)