ビジネスの世界では、1990年代初めの経済成長期まで上意下達の日本型組織は有効でした。しかし、人口減や消費志向の多様化が進む21世紀には、もはや通用しなくなってきています。近年の日本経済の停滞に権力格差が関係していると考えられています。権力格差とは、それぞれの国の制度や組織において、権力の弱い成員が、権力が不平等に分布している状態を予期し、受け入れている程度を意味します。要するに、上に対してモノが言いやすいかどうかの指標です。
スコアが高いほど上に弱い状態を表しており、76の国・地域を対象とした調査では、マレーシアの104やロシアの93が高くなっています。低いのは、オーストラリアの11、スウェーデンの31などです。日本はスコア54と欧米先進国に比べて高く、モノが言いづらい国と位置づけられています。権力格差指標と国際的なイノベーションランキングの関係を調べてみると、上に反論しやすい国・地域ほど、イノベーションが起こりやすい傾向があるとされています。
社会構造を変えることはできなくても、企業単位なら、権力格差の縮小に取り組めます。そのカギになるのは、世の中への問いや価値観への疑問から始まるマーケティング思考です。とりわけ資源の限られる日本では、問いとアイディアが生命線となります。従業員の指摘、疑問、アイディア、懸念は、市場と組織で起きていることについて重要な情報をもたらします。VUCA(ブーカ=変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)の時代は、働く人々の心理的安全性が利益に直結すると考えられています。
(2024年1月16日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)