2014年の出生数は100万人の大台を割り込む寸前にまで減少している。国は2050年までに1億人の人口を維持する目標を掲げているが、これを達成するための具体策は見あたらない。しかし、税・社会保障制度の改革により、財政再建と少子化対策を推進し次世代の子ども達が希望を持てる改革シナリオを考えなければならない。巨額の赤字を抱えるわが国の財政状況を考慮すれば、子育て支援の財源も限られている。少子化に伴う労働力不足を補うためには女性の活用が不可欠であるが、子育て支援の強化がなければこの問題は解決しない。
人口減少を止めるために合計特殊出産率を置換水準である2.07以上に引き上げる必要がある。この数値目標を達成することは容易なことではなく、道のりは途方もなく遠い。しかし、この少子化の流れを食い止めなければわが国の存続はあり得ない。日本経済研究センタ-が2013年度に公表した長期予測によれば、経済的側面だけを考えると、子ども・子育て支援を13兆円に増額することにより、フランスや北欧並みの水準を確保することができるとしている。
13兆円の内訳で重要なのが8兆円の保育支援などの現物給付である。これによりすべての待機児童を保育施設に受け入れる体制を整え、子育て世代の男女がともに仕事を離れずに済む社会を実現する。残りの5兆円の現金給付は、生活資金の不安を抱える若者の結婚・子育てを後押しする。これらは社会保障給付の世代間格差を是正し、将来世代が希望を持てるような措置の一環である。財政再建と少子化対策を同時に進めるには、抜本的な財政改革が必要とる。本丸は社会保障であり、今の医療や介護は負担を超える給付で、赤字を将来世代に付け回している。
現在の高齢者に偏っている社会保障給付を現役世代に振り分けなければ、少子化の流れは止まらない。高齢者に対する医療費・介護費の削減や自己負担の引き上げなど、合理化の余地は残されている。高齢者の負担が耐え難いということであれば、追加の消費増税などの代替案を考えなければならない。全世代にわたり社会保障を充実させるには、国民全体の負担増が必要となる。いずれにせよ、痛みを伴う改革は避けて通れない。
(2015年3月13日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)