新型コロナワクチンは、ウイルスの遺伝情報を伝えるメッセンジャーRNA(mRNA)という物質を接種することで、ウイルスのタンパク質を人の体内で作り出し、免疫を獲得する仕組みを持っています。従来のワクチンはウイルスの培養や処理に手間がかかり、開発に数年を要していました。これに対し新型ワクチンはRNAを人工合成して作るため、ウイルスのゲノムさえ分かれば、効果の高いワクチンを短期間で大量生産できる利点があります。
日米欧などの先進7カ国(G7)は、次のパンデミックが起きた場合は、ワクチンや治療薬を100日以内に開発するという大胆な目標を掲げています。切り札として期待されるのは、多くのウイルスに効果がある万能ワクチンです。コロナウイルスは複数の種類があり、今世紀に入って重症急性呼吸器症候群(SARS)や中東呼吸器症候群(MERS)も引き起こしました。新種のコロナウイルスがまた出現しても、万能ワクチンを備蓄しておけば直ちに接種して対抗できます。
コロナウイルスは、表面にあるスパイク状のタンパク質によって人に感染します。その構造は変異株やウイルスの種類によって次々と変わるため、その度にワクチンを作り替えると、いたちごっこになってしまいます。そのため、変異しない共通部分のタンパク質に対して免疫ができる万能ワクチンを作り、一網打尽にする作戦が有望視されています。
人工知能(AI)も重要な武器になります。感染状況の予測などで既に利用されていますが、ワクチンや新規の治療薬開発でも威力を発揮すると思われます。AIは、ゲノムのデータからタンパク質の立体構造を高精度に予測でき、薬の開発効率を一気に高める革命的な技術として注目を集めています。
(2022年7月23日 産経新聞)
(吉村 やすのり)