先進国の8割で、2021年の出生率が前年に比べて上昇しています。男女が平等に子育てをする環境を整えてきた北欧などで回復の兆しが見えた一方、後れを取る日本や韓国は流れを変えられていません。OECDに加盟する高所得国のうち、23カ国の2021年の合計特殊出生率は、19カ国が2020年を上回っています。過去10年間に低下傾向にあった多くの国が出生率が反転しています。
2020年から2021年の国別の出生率の差とジェンダー格差を示す指標を比べると、相関関係がみられています。ジェンダーギャップ指数の高い国ほど、出生率に改善がみられています。長い時間をかけてジェンダー格差を無くしてきた北欧では、家庭内で家事・育児にあてる時間の男女差が少なく、女性に負担が偏りにくい環境が整っています。先進国の中でもジェンダー格差が大きい日本と韓国の出生率は、いずれも0.03下がっています。家庭内の家事・育児時間の男女差が4~5倍ある両国は、女性の出産意欲がコロナ禍で一段と弱まっています。
ジェンダー格差とともに少子化に影を落とすのは収入です。東京大学の調査によれば、年収別にみた40代男性の子どもの数は、2000年以前は年収による差が小さかったのに対し、最近では年収が低いグループの子どもの数が高いグループの半分以下になっています。十分な収入を確保できない状況が続けば育児は難しくなります。共働きで世帯収入を増やすことは、出生率を底上げすることになります。
先進国で女性の社会進出は少子化の一因とされ、1980年代には女性の就業率が上るほど出生率は下がる傾向にありました。しかし、最近は北欧諸国などで経済的に自立した女性ほど子どもを持つ傾向があり、女性が労働参加する国ほど出生率も高くなっていきます。日本は女性の就業率が7割ほどと比較的高いにもかかわらず、出産につながりにくい状況にあります。保育の充実のみならず、家事・育児分担の偏りや非正規雇用の割合の高さといった複合的な要因が考えられます。
(2022年7月31日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)