気候変動対策の国際ルールであるパリ協定は、産業革命前からの世界の気温上昇を1.5度までに抑える1.5度目標を掲げています。しかしWMOは、2024年の平均気温の上昇は、1.54度を記録するとの分析結果を示しています。1.5度目標は、猛暑や災害のリスクが高まるとされる水準に達するのを避けるためのものです。気候変動のしわ寄せを受けているのは、高齢者や貧困層など、社会的に弱い立場の人々です。
日本の消防庁によれば、国内の5年平均の熱中症死者数は20年前頃には約300人でしたが、昨年までの過去5年では約1,300人と4倍に増加しています。熱ストレスや、脱水による血液の粘度が高まることがリスクにつながります。感染症を運ぶ蚊の生息域が広がったり、災害による怪我人が増えたりする、間接的な脅威もあります。
2022年に医学誌ランセットに掲載された論文によれば、暑さによって脳卒中や冠状動脈性心疾患、不整脈などのリスクが高まる傾向があります。気温が1度上昇する度に心血管疾患に関連した死亡率が、2.1%上がるとされています。
国連の気候変動に関する政府間パネルは、1.5度目標の達成には、2025年までに世界の温室効果ガスの排出量を減少に転じさせなければならないと指摘しています。しかし、排出量は過去最高を更新し続けています。こうした中、英国は、COP29で各国に先んじて2035年までの新たな削減目標として、1990年比81%減という意欲的な数値を打ち出しています。
(2024年12月10日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)