法的親子関係について憶う―Ⅰ

 明治31年から施行されている現行民法は生殖補助医療の概念を想定していません。日本民法は嫡出子に関する定義をもっておらず、7721項に「妻が婚姻中に懐胎した子は夫の子として推定される」と規定しています。したがって戸籍上夫婦の子どもとして記載されている嫡出子であっても772条の推定を受ける嫡出子とそうでない推定の及ばない嫡出子が存在することになります。
例えば、精子提供による人工授精(AID)によって生まれた子どもは、クライアント夫婦が、私たちの嫡出子と認め、育てることに同意しますと同意書面に署名、捺印したうえで、自分たちの子として届けを出しています。AIDを受けるためには婚姻関係にあることが必要条件となっていることより、これらの精子提供によって生まれた子は通常夫の子として戸籍に記載され、夫が嫡出否認の訴えをしない限り父子の関係は安定しているようにみえます。
 提供精子により妻が懐胎した子について、法律学者の間でも、夫が施術に同意したとの事実により夫の子と推定することこそ夫婦の意志に合致し、かつ子の保護になるとの見解が多数を占めています。精子提供によるAIDで生まれ、772条の適用を受ける推定される嫡出子であるとしたら、774条で嫡出性を否認できるのは夫だけということになります。さらに777条で、その避妊の訴えは、夫が子の出生を知ってから1年以内に提起しなければならないとされています。この期間を過ぎた場合または夫が子の出生後嫡出を一度承認した場合は、嫡出否認の訴えを起こすことはできないことになっています。このことより、AID児の父は母の夫であると法的には確定しているようにみえます。

(吉村 やすのり)

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