法科大学院の理念と現実のギャップ

 法科大学院は、2001年に学生の豊かな人間性の涵養向上、実際に社会への貢献を行うための機会を提供を理念として船出しました。当時の司法試験は、合格率3%の超難関で知識偏重との批判から脱却しようと、法学以外の人にも門戸を広げようとしました。また2.2万人だった法曹人口を増やし、広く法的サービスを受けられる社会も目指しました。

 しかし、制度は早々に躓きました。最初の誤算は大学院の予想外の乱立でした。ピークだった2005~2010年には、当初の予想の2~3倍の74校に上りました。大学のステータスを上げたい積極派と、つくらなければ法学部が弱体化すると考える消極派がありました。司法試験受験者も想定を上回る最大8,700人超に上りましたが、合格者数は年2千人程度に減少しています。

 大学によっては、年100万円を超える学費と数年の時間を要しても、司法試験合格率は期待値以下でした。受験の必須条件ですらなくなり、法科大学院志願者は2004年の約7万3千人から、2018年には約8千人に減少しました。今、学生を募集しているのは主に大都市圏の34校だけです。

 司法試験の合格率を上げることを最優先に、多くの大学院が実地教育をやめ、憲法や刑法など必須科目の授業が増え、実地で法曹の意義を学ぶような授業は減少してしまいました。司法試験合格率の上昇・維持のため、定員を減らす大学院も多く、34校の入学定員はピークの4割未満に減少しています。

(2025年1月10日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)

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