無痛分娩の増加

 一般的な無痛分娩は、背骨の中にある硬膜外腔に細い管を刺して麻酔薬を入れます。痛みが全く無くなるわけではありませんが緩和されます。方法は医療機関によって様々で、自然な陣痛がある程度進んでから麻酔を行う場合のほか、日程を決めて陣痛を誘発させ出産を計画するケースもあります。

 WHOは、健康な女性が希望する場合は無痛分娩を推奨しています。痛みを和らげることで疲労感が減り、産後の回復が早まることがあります。高血圧や心臓疾患といった持病がある人は体への負担が軽くなるメリットもあります。全分娩数に占める無痛分娩の割合は米国で7割、フランスで8割に達しています。国内でも、近年出産時の選択肢の一つとして希望する人が増えています。都内在住で無痛分娩を希望した人の割合は6割を超えています。

 日本産婦人科医会の調査によれば、2024年の全分娩数に占める無痛分娩の比率は13.8%です。2018年時点の5.2%から大きく伸びていますが、希望する人の割合とはまだ開きがあります。背景の一つが、無痛分娩を実施している施設の地域間の偏りです。全国の分娩施設のうち無痛分娩を受けられるのは4割です。2024年に無痛分娩の比率が20%を超えたのは、東京都や神奈川県、千葉県などで都市部が目立っています。地方は実施している医療機関が少なく、岩手県や高知県、福井県などは2%を下回っています。

 無痛分娩は、通常の出産の管理に加え麻酔の管理が必要になります。軽度の血圧低下などの副作用に加え、まれに麻酔の管が硬膜外腔の奥に入り呼吸ができなくなるなどの合併症を起こすことがあります。産科に特化した麻酔医がいる米国などに対し、日本では麻酔医そのものが不足しており、産科医が麻酔も手掛ける医療機関も少なくありません。

 東京都は10月から対象の医療機関で実施した人に対して最大10万円の費用助成を始めます。無痛分娩の費用助成は都道府県で初めてで、助成は半年で約9,500件を想定しています。都のアンケートによれば、無痛分娩を希望したが実施に至らなかった理由は、費用が高いからが33%で、帝王切開などになったが43%で次いで多くなっています。

(2025年5月24日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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