今回の裁判では、これまで夫婦間で行われてきたAIDでは、夫の同意を要件として父子関係を認めているにも拘らず、性同一性障害のカップルでは認められないのは差別であると原告は主張した。しかし、通常のAIDで生まれた子どもについて、民法772条が適用されるものとは解されていないとの判断がなされ、性同一性障害のカップルと通常の夫婦間のAIDとの間で、民法772条の適用に差別があるとは言えないとしている。
性同一性障害患者夫婦へのAIDで生まれた子が嫡出子として認められないことを考慮すると、通常の夫婦間で実施されているAIDにおいても、生まれた子どもが夫との間に遺伝的な関係がないことが明らかになれば、現行法のもとでは嫡出子とはならないことになってしまう。今回の判決では、これまでのAID児においては、区役所の担当者が生まれた子どもがAID児であることが明らかでないため、推定用件を満たしていると推定しているにすぎないと述べている。
逆説的に言えば、担当者がAID児であることと知ったならば、嫡出子として認めないという状況は十分に考えられうる。これは、これまでAIDで生まれた1万5千人を超える子どもが非嫡出子になる可能性があることを考えると、極めて深刻な問題である。
このようにAID児においても子どもの法的地位保全のために早急の法的対応が必要となる。
(吉村 やすのり)