夫婦間で自然に子どもが出来ない時は、第三者の精子・卵子の提供をうけたり、第三者に妊娠・出産を依頼したりすることがあります。こうした第三者を介する生殖医療は、主に海外で実施されています。提供精子による人工授精(AID)は1948年よりわが国において実施されていますが、卵子提供による体外受精は、わが国ではドナ-卵子を得ることが困難なことより、30数例の分娩例しか報告されていません。一方、代理懐胎など、国内では原則受け入れられない治療を海外で実施するクライエントが増加していますが、夫婦と子どもの法的な親子関係の確定や国籍などで紛争になるケ-スが後を絶ちません。こうした事情をふまえ、生殖補助医療を扱う自民党のプロジェクトチ-ム(PT)が法案をまとめ、今国会への提出をめざしています。
それによれば、第三者の卵子を用いた生殖医療でうまれた子の母は、出産した女性としています。また、第三者からの精子提供に同意した夫が、後で父であることを否認することを禁じています。一方、合わせて法制化が検討されてきた、代理出産や卵子提供の可否、認める際の条件などについては、合意が難しいとして、今回の法案では判断を避けています。第三者が妊娠・出産を担う代理懐胎は、依頼する代理母に命にかかわるリスクを負わす危険性があります。また、依頼した夫婦がダウン症の子を引き取らない例など、海外ではトラブルも発生しています。いずれも倫理面から欧州では禁止している国もあり、慎重な検討が必要となります。
治療を受けるための行先は、かつての米国から、より安価なインドやタイなどの新興国に移ってきています。生殖の商品化、女性の搾取の側面は否定できません。こうした海外での第三者を介する生殖医療は後をたたず、日本での法的な規制は及びません。しかしながら、施術の是非は別として、現実に生まれてくる子が存在することより、子どもの法的地位を確立しておくことが必要となります。旧厚生省のもとで1998年より、こうした生殖補助医療を議論し始めてから18年が経過しましたが、いまだ法制化には到っておりません。
第三者の精子を用いたAIDは、実施されて60年以上経過しています。この方法で生まれ、自分のル-ツがわからないつらい胸の内を明かす人が近年出てきており、アイディンティティーにかかわる問題を切実に訴えています。出自を知る権利は、国連の子どもの権利条約にも記され、先進国では提供者情報の記録・保管と、希望する子への開示をするようになっています。今回の法案では、この子どもの出自を知る権利については継続審議としています。行為規制を議論する前に、法規制を決めることは問題であるとの指摘もありますが。まず生まれてくるの子ども法的地位の安定をはかることは大切です。
(吉村 やすのり)