生殖医療を考える―Ⅴ

生殖医療のもたらすもの―②

 生殖医療に携わる者にとって、生殖補助医療により出生する児の長期予後が不明であるばかりではなく、生殖細胞の人為的操作の影響が次世代以降に継続する可能性があることを認識することが大切である。これまでの発表では、体外受精や顕微授精を施行してはいけないというような身体的リスクは認められていない。現在、わが国の生殖補助医療に求められる最も重要な課題は、児と家族の長期フォローシステムを確立することである。これまでの報告は、生殖補助医療の技術統計といわれるものであり、生殖補助医療を受けるクライエント情報や生まれた子どものデータが集積されていないことが問題であった。そのため、日本産科婦人科学会は2007年より子どものデータも含めたオンライン登録を開始しており、生後1カ月までの出生児の状況は把握できるようになっている。今後はわが国においても北欧諸国と同様に、公的管理運営機関などにおける国レベルでの児の長期予後調査が必要となるであろう。
 平成22年度より著者らが厚生科学研究において、生殖補助医療によって生まれた子どもの長期予後のデータの集積を開始している。子どものデータとしては、身体発育のみならず精神運動発達についても15年もの長期に及ぶ追跡調査がされることになっている。現在までの調査結果では、1.5歳までの身体発育においては、自然妊娠で生まれた子どもとの間には差異が認められていない。また精神運動発達については生殖補助医療で生まれた子どもの方がかえって良好な成績が得られているが、より長期な検証が必要である。
(吉村 やすのり)

カテゴリー: what's new   パーマリンク

コメントは受け付けていません。