生産年齢人口とは15歳から64歳までの人口のことを言います。これに対して15歳以上で働く意思のある人を労働力人口と呼びます。15~24歳の労働力人口が計603万人なのに対し、65歳以上は907万人です。65歳以上も生産に大きく寄与しており、生産年齢ではなく支える側というイメージと大きく異なっています。健康寿命は、男性72歳、女性75歳に延びています。長寿化など社会環境が変化する中で、生産年齢人口の定義は多様化しています。
日本老年学会などは、2017年に65~74歳は准高齢者、75~89歳が高齢者、90歳以上を超高齢者とする新定義を提言しています。高齢者は健康状態など多様なので一概には言えませんが、30年後を見通せば70代前半まで働き続ける社会は決して夢物語ではありません。健康寿命までを生産人口にすれば、日本は韓国やイタリアよりも、支える側と支えられる側の歪みが小さくなります。決して高齢化が最も深刻な国ではないことになります。
高年齢者雇用安定法の改正で、4月から企業は従業員が70歳まで働けるような措置をとる努力義務を負うことになります。厚生労働省が2019年に従業員31人以上の企業約16万社を対象にした調査では、99.8%の企業で定年の引き上げや廃止、継続雇用の措置を取っています。法改正の背景には日本の労働力不足があります。国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、生産年齢人口は、2050年に5,275万人と2015年と比べ約2,400万人減り、反対に65歳以上の高齢化率は38%と11ポイントも高まってしまいます。
老後をどう生きるかは、それぞれの価値観によります。数ある選択肢から長く働き続けることを選べば、経済的な面だけでメリットが3つあります。1つ目は、生涯賃金を増やせることです。2つ目が、会社勤務などにより最長70歳まで厚生年金への加入を続ければ、将来受け取る老齢年金を積み増やせます。3つ目は、勤務する会社の健康保険への加入も続けると、万一病気や怪我で働けなくなった時に傷病手当金がもらえます。
やりがいをもって働き続けるためには、人事・賃金制度全体の見直しも必要です。現行の65歳までの高年齢者雇用制度の8割近くが、60歳定年後の再雇用といった継続雇用制度です。定年前と比べ賃金が3~7割程度に下がり、働きがいを失う人も少なくありません。雇用年齢を単に引き上げるだけでなく、働く意欲につながる仕組みづくりが不可欠です。
(2021年1月1日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)