生産年齢人口の減少時代に向けた高齢者の貢献

少子高齢化は、社会保障を含む経済社会の支え手が減少し、生産と消費のバランスが国全体で崩れることを意味します。高齢化に伴い、生産年齢人口の総人口比は、2021年までに約10ポイント低下しています。しかし、就業者数は2000年から2015年頃までは低迷したものの、その後大きく回復し、2021年の総人口比は約3ポイント上昇しています。
就業者数の増加に貢献しているのは、65歳以上の高齢層です。しかも主役は正規雇用者ではなく、非正規雇用者やフリーランス・個人事業主など被用者以外の就業者です。出生率の長期低迷が示すように、少子化対策により産み育てやすい環境は整備できても、出生率の回復までは期待しにくい状況にあります。一方で、このままでは支え手が足りなくなるから、世の中を回すために働ける者は働こうという調節作用が、社会全体で働いているようにみえます。
社会保障改革が目指すべき最も大切なことは、支えて回復の勢いをより確実なものにし、人々が支え手として無理なく社会に貢献できる仕組みを構築することです。高齢層の支え手増加のかなりの部分が、正規雇用以外であることは問題です。支え手が増えても、社会保険料を通じた社会保障財源への還元も限定的となります。高齢の支え手増加が非正規雇用者や被用者以外の就業者の形をとるのは、保険料負担を回避したい企業の意向を反映しています。
日本の社会保障給付は、2020年度には総額132兆円にのぼります。GDPの約4分の1に相当しますが、ひとり親世帯や単身高齢者の貧困率は、先進国の中でも高いグループに属します。高齢層でも支援が必要な人がいれば、そうでない人もいます。限られた財源をできるだけ公平で効率的に使うには、年齢とは関係なく、負担能力に応じて負担を求め、給付も発生したリスクへの必要性に応じたものにするという方針が基本となります。
人口は減少局面に既に入っています。1人当たりの負担は、分母が減るので膨らんでいきます。自分たちの幸せを追求すると、将来世代に迷惑がかかります。民主主義はあくまでも今を生きる全世代の幸せを追求する仕組みですが、人口増加を暗黙裡に想定しています。しかし人口減少の下では、将来世代もそこに含める必要があります。将来世代に不要な負担をかけないためには、世の中の支え手を増やし、限られた財源を大事に活用することが必要になります。

(2022年12月21日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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