甲状腺は、喉仏のすぐ下にある臓器で、食物などに含まれるヨウ素(ヨード)を原料として甲状腺ホルモンを作る臓器です。甲状腺ホルモンの最も重要な働きは体温を維持することです。甲状腺の機能低下でホルモンが不足すると冬の寒さに弱くなります。倦怠感やメンタル面の症状である意欲の低下も、高い頻度で発生します。40~50代の女性では更年期うつ病と診断されることもあります。便秘、皮膚の乾燥(カサカサ肌)、脱毛、むくみなどの症状が起こります。
人間ドックやかかりつけ医で行われる甲状腺検査では、血液中の甲状腺刺激ホルモン(TSH)と、甲状腺ホルモンの量を調べます。TSHは脳下垂体が甲状腺に指令を出す際に分泌するホルモンです。機能低下によって甲状腺ホルモンの量が減り始める前段階から、TSHの分泌量が増え始めます。そのため甲状腺ホルモンの量が正常値のまま、TSHの量が高めに出ている場合があります。甲状腺検査で甲状腺ホルモンが正常値より低かった時はもちろん、TSHの方だけが正常値から外れている場合でも、甲状腺を専門に診ている医師の診察を受けた方が良いと思われます。
原因には、他の疾病で使う薬剤の影響や、ヨード類の取り過ぎなどがあります。一番多い原因は、正常な細胞を誤って攻撃する自己免疫疾患の橋本病です。20~40代の女性に多く、甲状腺に慢性的な炎症が起きて機能低下します。原因が橋本病の場合は、合成甲状腺ホルモン剤を服薬します。定期的な検査を行っていれば健康を保てるので、安心して服薬を続けることができます。
(2020年2月8日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)