ヒトパピローマウイルス(HPV)は、主に性交渉で感染します。ワクチンはHPV感染を防ぐため、初めての性交渉の前に接種することが望ましいとされています。HPVワクチンの男性の接種は、女性が感染する機会を減らすことにもつながるうえ、男性自身のがん予防効果も期待できます。日本では2020年に、4種類のHPV型の感染を防ぐ4価ワクチンの効果に、男女の肛門がんが追加されています。
子宮頸がんを予防するHPVワクチンは、舌の根元や扁桃あたりにできる中咽頭がんにも効果があると考えられています。オーラルセックスや唾液を介して喉に感染する中咽頭がんは、先進国を中心に増えています。米国の男性の中咽頭がんは、1999年に約7千人でしたが、2015年には約1万5千人になっています。
大阪府のがん登録でも、この25年で男性の中咽頭がんは約2.5倍に増えています。国内の中咽頭がんの患者は約5千人で、その半数がHPVが原因とされています。咽頭のHPVの感染率は、経験した性的パートナーの数が多いほど高い傾向にあります。
HPVワクチンの接種を導入している国や地域は約130あり、うち約40では男性も定期接種の対象となっています。HPVワクチンは、本来性別問わず接種すべきで、決して女性だけのワクチンではありません。海外の状況などを踏まえて、厚生労働省は、男性の定期接種化に向けた検討を始めています。
(2023年3月8日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)