配偶者間暴力に悩む男性が増えています。パートナーからの暴言や暴力に苦しみながら、長年耐え続ける被害者も少なくありません。配偶者の暴力について警察が受け付けた相談件数を見ると、男性からは2023年に2万4,000件超と、10年で約7.5倍に増えています。DVに関する情報発信が増え、男性も被害を自覚しやすくなったことが一因と考えられます。
2024年4月施行の改正配偶者暴力防止法は、身体的DV以外に言葉など精神的DVも被害者への接近を禁じる保護命令対象としています。自由に使えるお金をわたさない経済的DVに苦しむ人もいます。DV被害の約7割は依然女性です。そのため男性は加害者のイメージが先行しやすいのですが、相手を支配しようとするタイプは男女関係なく一定数います。
DVを原因とする自殺は男性の方が多くなっています。警察庁の統計によると、2024年のDVによる自殺者数は男女合計99人で、そのうち男性は82人で全体の8割を占めています。男性が被害者になるはずがないといったジェンダーバイアスが大きく影響しています。子どもと離れたくないといった理由で、相談に踏み切れない男性もいます。
性別にかかわらずDVについて周囲に相談し、支援を求めて良いという社会的な認識を深めることは急務です。国や自治体の相談窓口は電話やチャット相談を受け付けています。被害の訴えの客観性などは慎重に見極めつつ、男性への対応法も拡大し、これを起点に性的マイノリティーなど一段と多様な被害者が安心して相談できる場所を整える必要があります。

(2025年5月15日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)