不妊治療で多胎妊娠となった妊婦に対し、異常多児を選び減数手術を36件行ったとの報道があった。3児以上の多胎を減らす減数手術は以前から実施されてきたが、ダウン症などの染色体異常や胎児水腫などの胎児異常に実施したとの報告ははじめてである。
3胎以上の多胎では、母子に与えるリスク(流産、早産、胎内死亡、未熟児など)が高まるため、母子の健康保護を目的に減数手術が実施されている。最近では、体外受精・胚移植による多胎が減少し、それに伴い減数手術も減少している。しかし、体外受精以外の不妊治療、特に排卵誘発剤使用による多胎は、完全防止することができないため、少なからず減数手術が行われているのが現状である。
今回の報道で問題点は二つある。一つは現行の母体保護法の下で減数手術が実施できるのか、という問題である。母体保護法の人工妊娠中絶においては、「胎児が、母体外において生命を保続することができない時期に、人工的に胎児及び附属物を母体外に排出することをいう」と定めていることより、減数手術はその規定に合致しないとの考えがある。
日本母性保護産婦人科医会は、平成5年に減数手術については、優性保護法(現母体保護法)上の人工妊娠中絶手術に該当せず、堕胎罪の適用を受ける可能性があるとの見解を公表している。その後、平成8年に日母提言として、多胎減数手術人工妊娠中絶の適応で実施できるとの母体保護法の改定を提案しているが、法制化されていないのが現状である。
平成12年の厚生科学審議会先端医療技術評価部会、生殖補助医療に関する専門委員会においては、減数手術は原則禁止としながらも、多胎妊娠の予防措置を講じたにも拘らず、やむを得ず多胎となった場合には、母子の生命健康の保護の観点から実施は認められるとしている。
減数手術が現行の母体保護法の元で実施できるのかの判断が必要となるのであろう。
二つの問題は、異常胎児を減数することができるのかという問題である。先の専門委員会の報告では、遺伝子診断や性別診断によって減数児の選別を行ってはならないとしている。今回の報道はこの点に抵触するが、同様の異常胎児の中絶は新型出生前診断においてもなされているという現実がある。
いずれにしても、減数手術や出生前診断についてはもう一度その是非から議論することが必要である。この議論はメディカルプロフェッションである一学会で行うような問題ではなく、社会的な合意のための広く国民的議論を早急に進めるべきである。
(吉村 やすのり)