異次元の少子化対策を憶う

 厚生労働省が発表した人口動態統計によれば、2024年の日本の出生数は過去最少を更新し、婚姻数も戦後2番目に少なく回復はみられていません。政府による異次元の少子化対策は、初年度に状況を反転させることができませんでした。出産適齢期の人口が減ったことに加え、未婚化・晩婚化で想定より早いペースで少子化が進んでいます。

 政府は、2023年に異次元の少子化対策を打ち出しました。2024年度からの3年間で集中的に取り組む加速化プランを策定し、1年あたり3.6兆円を新たに投じる計画で、児童手当の所得制限撤廃やこども誰でも通園制度の創設を盛り込みました。初年度となる2024年度は児童手当の拡充や大学授業料の減免に1.3兆円を投じました。2年目にあたる2025年度は、3.6兆円のうちの8割にあたる3.0兆円を実行に移し、育児休業給付の拡充や保育士の処遇改善を進めます。

 これまでの少子化対策で、保育所の受け皿の整備は進み、2024年4月時点の待機児童は2,567人と、6年連続で過去最少を更新しました。2017年と比べ10分の1に減少しており、保育士の給与の引き上げや配置基準の見直しも進んでいます。男性の育休取得も増加傾向にあります。それでも少子化に歯止めはかかっていません。日本人に限った2024年の出生数は前年比5.7%減の68.6万人、婚姻数は2.1%増の48.4万組になる見通しです。1人の女性が生涯に産む子どもの数を示す合計特殊出生率は1.14台で2023年からおよそ0.05ポイント下がるとされています。

 背景には減少した婚姻数や出生数が戻りきっていないことがあります。2024年の婚姻素は2.2%増の49万9,999組で、2年ぶりに前年を上回ったものの過去最低水準にあります。コロナ禍を経て若い世代のライフスタイルが大きく変化を遂げ、結婚観、家族観、人生観などが10年前と異なってきています。今後出生率の改善を期待することはできず、少子化を前提とした社会の仕組みづくりが急がれます。

(2025年2月28日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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