病棟再編の必要性

政府は、第3波以降に1床当たり最大1,950万円の補助金を出して、確保病床を約3万床から5千床ほど上積みしましたが、それでも2021年夏の第5波では、病床使用率が6割程度で医療逼迫が起きてしまいました。補助金を受けながら患者を積極的に受け入れない幽霊病床の疑いも浮上しています。
コロナ禍で露見した医療提供体制に対する不作為の最大の問題は、乱立する病院の統合再編が進まなかったことにあります。人口当たりの病床数が世界一多くても、1床当たりの医師や看護師が少ないため、新しい感染症など非常時に柔軟に対応できていません。海外では、数百から千床超の大病院が中心で、手術など手厚い治療を施す急性期病床に特化しています。日本より感染者が桁違いに多くても、医師など医療資源が病院に集約されており、余力が大きくなっています。
日本では、重篤な患者に対応できない急性期病床が多くなっています。医師や看護師が少なくても高い診療報酬を認めているため、中小病院が急性期病床を手放しません。平時の医療水準や価格の低さ、アクセスの良さでは、世界最高レベルにありますが、有事の際に医療提供体制を転換できる仕組みが用意されていませんでした。
厚生労働省の調査によれば、高齢者の増加で2025年には急性期病床が過剰になります。しかし、病床再編を強制する手段が現在のところありません。現在わが国の半数近くを占める急性期病棟の再編が不可欠です。次のパンデミックもにらみ、医療界の資源や人材を総動員できる司令塔となる政府機関の新設が必要です。個別病院の経営判断に任せず、地域や国にとって全体最適となる目標を示し、病床再編を強力に推し進めることが大切になります。有事への備えは平時にこそ取り組むべき課題です。

(2022年2月24日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

カテゴリー: what's new   パーマリンク

コメントは受け付けていません。