日本の一般病床は長期療養患者が入る慢性期病床を除くと、約90万床あります。しかし、デルタ株の流行で重症者が最も多かった2021年夏でも、コロナ患者に充てられた病床は5%程度でした、その間も全体の2割程度は空床になっていました。ベッドが足りなかったのではなく、患者を受け入れる体制が整ってなかったからです。
日本の病院は小規模林立型です。人口あたりの総病床数は先進国で最も多いのですが、医療人材が分散配置され、効率的に患者に対応できないのです。人口1千人あたりの看護師数は12人と先進国でも上位ですが、1病床あたりでは0.9人と米国の4.1人や英国の3.1人を大きく下回ります。厳格な感染対策が必要なコロナでは、患者の4~5人に対して看護師が1人で対応するといった手厚い配置が必要なので、看護師不足で患者を受け入れられないという事態も起きました。
人口減少と高齢化の両方をにらんだ病院・病床の再編が必要です。人口減によって集中的な治療が必要な急性期の患者はしだいに減っていきます。一方、危険な状況を乗り越えた後で元の生活に戻れるようにリハビリなどを行う回復期の患者は、高齢化の進行によって逆に増えていきます。厚生労働省は、2025年までの10年間で、急性期の病床を約23万床削減し、回復期の病床を約24万床増やす地域医療構想を掲げていますが、ほとんど進んでいません。
こうした再編は、複数の市町村をまとめた2次医療圏の単位で関係者が協議して計画をつくる必要があります。しかし、住民は自分に身近な病院がなくなったり、急性期から回復期に転換したりすることを嫌がるので、なかなか合意できません。病院も後ろ向きのところが目立ちます。入院患者の受け入れで病院が得る入院基本料は、手厚い医療が必要な急性期の病床のほうが回復期の病床よりも高額に設定されているためです。
再編が必要な医療機関は病院だけではありません。住民に身近な診療所や薬局も高齢化をにらんだ体制の見直しが必要です。診療所は小規模で医師が少ないところが多く、休日・夜間の往診など24時間体制で在宅患者を支える機能が足りません。薬剤師も訪問調剤やきめ細かい服薬指導のニーズが高まります。診療所や薬局がかかりつけ機能を発揮するには、規模拡大や外部連携など体制を見直す必要があります。
(2023年8月14日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)