患者の受療行動がコロナ前の状況に復したにもかかわらず、近年医療機関の経営悪化が目立ちだしています。危機に当面しているのは、開業医の診療所よりも病院が圧倒的に多くなっています。より深刻なのは、慢性期医療を提供する療養型病院よりも急性期医療を手がける一般病院です。今年1~6月期に経営破綻した病院は21にも達しています。
大学病院も苦しく、東京では順天堂大学、地方都市では新潟大学など多数の病床を有し、高度先進医療を得意とする医学部附属病院の収支がにわかに悪化しています。要因としては、第一はコロナ禍中に安部・菅・岸田の3政権が大盤振る舞いした医療機関への補助金が途切れたことです。第二は物件費や医療職の人件費の上昇に、公定価格である診療報酬を元手とする収入が追いついていません。
診療報酬には、建物や設備を更新してサービスを充実させようとする病院の苦境に追い打ちをかける仕組みが内包されています。消費税非課税という制度上の不備です。病棟を建て替えたり新鋭の医療機器を購入したりする際は消費税を払います。しかし医療サービスの対価である診療報酬本体には消費税がかかっていません。原則3割の窓口負担を払う患者と7割を受けもつ健康保険という最終消費者に、ゼネコンや医療機器メーカーに払った消費税分は転嫁できません。
消費税導入時や増税時に診療報酬を増額しています。しかし、増額したのは初診・再診料などだけです。外来患者という安定収入があり、設備投資の機会が比較的少ない開業医は潤い、病院は持ち出しになりがちな構造になっています。診療報酬という形で疑似課税していますが、非課税という建前は透明性を欠くやり方です。医療費に対する消費税についても考慮すべき時期に来ています。真に必要な病院が破綻して真っ先に困るのは患者です。政界は野党を中心に消費税の廃止・減税論が花盛りですが、患者を救う機能が消費税にあることを忘れてはなりません。

(2025年8月25日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)