従来より妊娠前期・中期におこなわれてきた出生前診断は、絨毛採取や羊水穿刺によってなされた。しかし診断が完了した時はすでに妊娠中期に到達しており母体に対する精神的・身体的な侵襲が重要な課題であった。妊娠成立前に受精卵の遺伝子や染色体上に遺伝学的異常の有無を診断する目的で、着床前遺伝子診断が登場し、欧米では20年にわたり染色体スクリーニングを含め広く臨床応用されている。わが国では、日本産科婦人科学会の見解によりスクリーニングは現在まで許可されておらず、この10年間にわたり重篤な遺伝性疾患にかぎり症例ごとに厳格な審査の後、実施が許可されている。
一方、新型出生前遺伝学的検査は、妊婦の血液で21-、18-、13-トリソミーなど染色体の数的異常を診断する検査である。これらはスクリーニング検査であるが、遺伝カウンセリングを行うことを目的とした臨床研究として認められている。本年4月より実施され、3カ月で1,500件以上の検査がなされている。
これら二つの検査についての宇都宮先生の考察が掲載されている。出生前診断と着床前診断を考える上でこの論述は傾聴に値する。
(吉村 やすのり)