虐待を受けるなどして親元で暮らせない子どもが、日本には約4万4千人もいます。8割が施設で暮らし、里親家庭で育つ子どもが少ないことが課題となっています。国は実の親と暮らせない子どもを預かる里親や、自分の子どもとして育てる特別養子縁組を増やそうとしています。厚生労働省は、里親委託率を50~75%に、年間約600人の特別養子縁組の成立を1千人以上に目指すとあります。
何らかの事情で親元で暮らせない子どもを育てる責任は、社会にあります。しかし日本は、子どもを守り育てることへのあらゆる公的支援が手薄で、個人や家族の持ち出しや努力に頼ったままです。親元で暮らせない子どもの多くは、児童養護施設で暮らしています。その4割近くの子どもが虐待を理由に親元を離れていますが、その背景には、経済的な問題が大きく横たわっています。虐待を受けた子どもを保護する児童相談所の調査でも、虐待の要因の約5割は家庭の経済的困難と不安定な就労にあると報告しています。
しかし、子どもへの虐待防止や、自立支援など、社会的養護にかける予算は多くありません。予算の比率は、ドイツの10分の1、アメリカの130分の1です。また、児童養護施設の職員1人に対する子どもの比率も、1対5.5と多くなっています。施設間の質の格差も問題です。日本の児童養護施設は、90%以上が民営です。公的支援が少なく、施設によっては子どもへのケアの質に差がある場合もあります。
家庭で暮らすのが難しく、社会的な支援が必要な子どもが育つ場は、これまで施設に大きく頼っています。児童相談所が保護した後、里親家庭で生活する子の割合は、欧米主要国では5~9割ですが、日本は2割です。国は里親や特別養子縁組を増やそうとしていますが、途中で子どもの養育が困難になることも少なくありません。いずれもケアの質の差ができないように、支援体制を充実させることが必要です。専門知識を蓄積していている施設は、里親では受け止めきれないような子どもや、施設での生活を希望する子どもたちが暮らす場として必要です。里親委託を増やしても、施設の重要性は変わらないはずです。
そもそも日本は、子どもがいる世帯ほど生活が苦しくなり、貧困に陥りやすい環境にあると言えます。自己責任論がはばをきかせる日本では、貧困や子育ての行き詰まりも、親の責任にされてしまう傾向があります。生まれた環境による格差を縮めるためにも、子どもや家庭に対する政策全体を見直すべきです。
(2019年11月29日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)