社会保障は“人生を安全に渡るための橋”

国の2023年度予算で、社会保障関係費は36.9兆円と、歳出の3分の1を占めています。病気や怪我で病院に行ったり、薬局で薬を受け取ったりする時、窓口で支払う料金は、実際にかかる費用の1~3割です。自己負担が一部で済むのは、社会保障の制度の一つ、公的医療保険があるからです。残りの費用は、私たちや会社が納める保険料、税金などで賄われています。保険料などを含めた社会保障給付費は134.3兆円に上ります。
人生が長い川だとすれば、社会保障は安全に渡れるように架けられた橋のようなものです。いわゆるセーフティネットで、公的年金が代表格です。退職後何歳まで生きるか分かりませんが、生活費の不安という面ではリスクでもあります。公的年金は亡くなるまでもらえますが、それは自らが納めてきた保険料ではありません。現役世代
が納めた保険料から配る仕組みのため、現役世代から高齢世代への仕送りと言われます。また、高齢期に介護が必要になった場合、老人ホームに入居したり、ヘルパーに自宅に来てもらったりできるのは介護保険のおかげです。保険がなければ、親の介護のために仕事を辞める介護離職者は、今よりもっと多くなります。
子どもを保育所に預けたくても、施設不足で入れることができない状況は大きな社会問題でした。国や自治体が待機児童対策で施設を増やしたことで、解消に向かっています。子どもが原則1歳になるまで、両親が利用できる育児休業制度も、子育てを後押しするものです。丈夫で広い橋を作るために多くのお金が必要なのと同じで、支え合いの制度を充実させようとすれば、それだけたくさんの保険料や税金を集める必要があります。安心を手に入れるため、どこまで負担できるか、議論を重ねることが大切です。

(2024年4月23日 読売新聞)
(吉村 やすのり)

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