高齢化のさらなる加速で、社会保障給付費は増加に歯止めがかかりません。2023年度は予算ベースで134.3兆円と、この20年で50兆円も増えています。2025年度に140兆円になると見込まれています。2025年には人口問題が最も多い団塊世代が75歳以上の後期高齢者になり、医療費急増は避けられません。85歳以上になる2085年以降は介護費も膨らみます。政府は2040年度の社会保障給付費を190兆円と推計しています。
2001年当時の小泉純一郎首相が、社会保障が長期にわたって経済の伸び以上に拡大を続けることは事実上不可能と述べています。20年以上たってもこの軛は変わっていません。しかし、社会保障費の給付を抑える議論に踏み込まず、財源探しで迷走を続けています。
75歳以上の後期高齢者医療保険によれば、2021年度の一人あたりの医療費は、前年度比2.6%増の94万1千円にも達しています。制度を導入した2008年度から9%も増えています。1人あたり介護費も2020年度は30万円で、2008年度から26%増加しています。財源は無限ではありません。一人あたりの高齢者の医療費や介護費の増加を抑えることが必要になります。
モデルは滋賀県です。2020年の調査で県民の平均寿命は男性が全国1位、女性が2位と長寿なのに、後期高齢者1人あたりの医療費と介護費は全国平均を下回っています。2001年には男性で5割超だった喫煙率の半減を目標に掲げ、生活習慣病対策も強化しています。医療費の高い県が滋賀県と同水準の単価に抑えられれば、2021年度の後期高齢者医療費は17兆円から1兆1千億円減らせた計算になります。
過剰病床の再編やかかりつけ医を中心とした地域医療の再構築などが、解決の糸口になると思われます。しかし、医師会などと摩擦は避けられません。年金、医療、介護に加え、これからは子ども・子育て政策向けの費用も膨らみます。医師会などとの摩擦から逃げた財源捻出に終始するようでは、社保財政の破綻は避けられません。
(2023年7月4日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)