福島県の甲状腺がん

 福島第一原発の事故以来、福島県では事故当時18歳以下だった38万人を対象に2011年秋から甲状腺検査が続けられています。チェルノブイリ原発事故後45年の間に、甲状腺がんが急増しました。チェルノブイリでは、本来甲状腺がんがほとんどできないはずの5歳以下の乳幼児に多発しました。甲状腺がんは成長速度がゆっくりなために、長期間の追跡調査が必要となります。13年度末までの1巡目検査においては、事故前にできたがんを発見していると考えられます。14年度からの2巡目検査で見つかるがんの発生率と比べて、被曝の影響を判断する方針としています。
 1巡目検査でがんの疑いがあるとされたのは116人であり、そのうち101人が手術を受け、1人が良性腫瘍、100人ががんと診断されています。原発に近い地域で多発しているわけではなく、地域ごとの発生率はほぼ同じであると考えられています。2巡目検査でがんの疑いがあるとされたのは51人であり、16人が手術を受け、がんと診断されています。福島県でこれまでに甲状腺がんと診断された計116人の中には、事故当時5歳以下の乳幼児はみられていません。がん患者は年齢が上がるにつれ多くなり、一般的な甲状腺がんの発生率と同様です。18歳で減っているのは、進学や就職で福島を離れ、受診者数が減った可能性があります。
事故後の放射線量については、外部被曝をもとにがんの発生率と被曝量の影響が検討されています。しかし、被曝には、体の外から放射線を浴びる外部被曝と主に食物を取り込むことによる内部被曝があります。この内部被曝による甲状腺への影響を考慮しなければなりません。受診率が下がれば、精度が下がって被曝の影響がわかりにくくなります。がんと被曝量との関係をみるためには、現行の検査は続けた上で、長期間確実に検査を受けてくれる県民を確保することが必要となります。

(2016年3月9日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)

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