国内で脳死ドナーは、依然大幅に不足しています。国内での移植を待ちきれない患者が途上国など海外に渡り、違法な臓器売買が疑われる移植手術を受けるケースがみられます。途上国などで金銭を払って臓器移植を受ける移植ツーリズムは、国際移植学会が2008年にイスタンブール宣言で禁止を掲げるなど、国際的に厳しく批判されています。非人道的な臓器売買につながるだけでなく、その国で移植を待つ人の移植機会を奪うためです。
日本内科学会など4学会が新たにイスタンブール宣言を承認し、日本移植学会を含む5学会は、不透明な渡航移植の根絶を目指す共同声明を出しています。国会でも、背景にある国内の移植件数の少なさが問題視され、制度見直しに向けた検討が加速しています。仲介業者についても、規制強化の必要性が議論されています。
脳死者からの臓器摘出手術が土日祝日に偏っていることも問題です。曜日に偏りがあると、移植施設に1日に複数の臓器が集まりやすくなってしまいます。施設の対応能力を超え、臓器の受け入れ断念につながります。この偏りは年々大きくなっており、今年は約7割に達しています。見送りは、移植を待ち望む患者にとって貴重な移植の機会を逃すことを意味します。
米国では、各医療機関の手術件数や患者の待機期間、移植後の生存率などのデータがウェブ上に公開され、移植医療の質の向上につながっています。一方、日本の公表データは限られています。現状の診療報酬制度では、移植を行うほど病院としては赤字が膨らんでしまいます。日本の移植施設が優れた手術成績をい上げているのは、医療従事者の使命感によって支えられています。移植医療体制を崩壊させないためには、国による投資と国民のコンセンサスが必要となります。
(2024年11月8日 読売新聞)
(吉村 やすのり)