種苗法の改正案を巡って

種苗とは、植物の種や苗のことで、米や野菜などの新品種は、国や自治体、民間企業などが開発しています。その際、開発者の権利である育成者権を保護するルールを定めたのが種苗法です。現在、高級ブドウのシャインマスカットなどのブランド農作物の国外流出が、後を絶たない状況にあります。現行法では、合法的に取得した種苗には育成者権が及ばないため、海外にも容易に持ち出せてしまいます。この穴を埋めるため、農林水産省は昨春から有識者の検討会を開き、法改正案をまとめました。
改正案のポイントは二つです。一つは、開発者が新品種を登録する際、輸出国や栽培地域を指定できるようにし、それ以外への流通を規制します。もう一つは、農家が次期作に備え、収穫物から種や苗を採る自家増殖の見直しです。従来は原則自由でしたが、誰が自家増殖をしているか把握できるよう開発者の許諾が要るようにしています。対象はあくまでも登録品種だけです。
しかし、この改正案に対しては懸念の声が上がっています。種苗の育成者権を持つ企業などが、許諾料を吊り上げる可能性があります。種の値段が跳ね上がり、農家の負担が大きくなってしまいます。法改正は、種子ビジネスを手掛ける大資本の多国籍企業に有利に働き、日本農業の弱体化や食の崩壊につながるのではといった危惧の声があがっています。しかし、音楽の著作権と同じように、開発者に対価を支払うのは当然との考え方もあります。

(2020年5月29日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)

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