第三者の精子や卵子を使った生殖補助医療で生まれた子について、親子関係を定める民法特例法案が開会中の臨時国会で成立する見通しです。法案では、第三者からの精子提供による治療に同意した夫が父であり、卵子提供で出産した女性が母であることを定めています。
明治時代にできた民法は、第三者が関わる生殖医療を想定していません。技術の進歩で治療は広まりましたが、精子提供を受けた夫婦に子が誕生した後、夫が自分の子であることを否認する訴訟も起きています。今回の法案で親が明確になれば、子は提供者に認知請求することができなくなります。提供者も子を認知できません。
法案が成立しても多くの課題が残ったままです。一つは出自を知る権利です。治療で生まれた子の中には、遺伝的に発症しやすい病気がないか、知らずに血縁者と結婚してしまわないかなどの不安から、提供者の情報を求める声があります。提供者を知りたい時に情報を入手できないなら、こうした治療は行なわれるべきではないとの意見もあります。提供者が分からないため、子に精子提供の治療で生まれた事実を告知することをためらう要因になっています。
夫婦の受精卵を使って第三者の女性に産んでもらう代理出産を認めるかどうかも、大きな課題です。最高裁は、2007年に法的な親子関係は、出産した女性が母としています。血縁があっても戸籍上の母子とは認めないとの判断です。治療の対象として、長年このような第三者を介する生殖補助医療は、戸籍上の夫婦に限られてきましたが、昨今は子を望む独身女性や同性カップルもいます。
今回の特例法案により、親子関係を巡る訴訟の回避が期待できる一方、生まれた子の出自を知る権利や代理母出産などの法制化は先送りにされています。2年をめどに結論が出される予定です。
(2020年11月29日 読売新聞)
(吉村 やすのり)