粒子線がん治療の保険拡大

陽子や重粒子のビームでがんを治療する粒子線治療で、4月から国の健康保険を使えるがんが増えました。肝臓や膵臓、大腸など、5種類のがんが加わり、これまでより患者が多いがんが対象となります。臨床試験で効果が確認できたためです。粒子線は放射線の一種で、最も軽い水素の原子核を加速する陽子線と、水素の12倍の重さの炭素の原子核を使う重粒子線の2種類があります。粒子線が当たると体内の物質がイオンになり、生じた電子ががん細胞のDNAを傷つけて攻撃するのが原理です。
陽子線治療では、2016年から小児がんで、2018年から頭頸部がんなどが保険の対象になりました。重粒子線治療は、2016年に骨軟部腫瘍が、2018年に頭頸部と前立腺がんが対象になりました。今回、肝臓、膵臓、肝臓内部にある胆管、手術後に再発した大腸がんの4種類が、重粒子線と陽子線の両方の治療で保険適用になり、子宮頸部腺がんが重粒子線治療で対象になりました。
今回保険の対象になったがんは、今後は患者の費用負担を抑えて治療できることになります。国の保険に加え、高額療養費制度を使えば、高年収の現役世代でも、毎月の医療費を30万円以下に抑えられます。粒子線治療の主な利点は、比較的短時間の治療と副作用の少なさです。1回の治療時間は15~30分程度、そのうち実際に粒子線を当てるのは1~3分程度です。1日1回、週に4~5回照射するのが一般的です。
日本には、重粒子線の治療施設が7カ所に、陽子線が約20カ所にあります。粒子線治療の対象となる患者は、CTやMRI、PETの画像診断などを経て、粒子線を当てる範囲を決めます。優れた粒子線治療ですが、全てのがんを治せるわけではありません。実際に照射できる範囲は15㎝角程度です。血液がんや、体中に転移した多数のがんには使えません。膵臓がんや子宮頸がんは、抗がん剤と同時期に粒子線を当てます。

(2022年5月17日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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