がんの放射線治療で陽子線や重粒子線を使う治療が広がっています。2024年6月に早期の肺がんなど3種類が公的医療保険の適用に加わっています。従来のX線よりもがんを狙い撃ちにするため副作用が少なく、治療効果も高いのですが、治療施設は限られております。現時点で保険適用のがんは、陽子線が9種類、重粒子線は11種類あります。いずれかもしくは両方の治療ができるのは全国で26カ所、特に重粒子線の施設は7カ所と限られています。
陽子線と重粒子線は放射線の一種で、粒子線は特定の深さで強さを最大にできるため、周囲の臓器や組織へのダメージを抑えつつ、病巣に集中照射できます。重粒子線は、同じ線量でも放射線治療で一般的なX線と比べ、治療効果が約3倍あるとされています。
粒子線の治療が決まると、照射中に体が動かないよう、まず体形にあった固定具を特注で作ります。重粒子線治療の場合、病院が患者の紹介を受けてから治療までに4~8週間程度かかります。1回の治療時間は10~30分程度で、そのうち実際に粒子線を当てるのは1~5分ほどで、照射によって痛みなどを感じることはありません。1日1回、週4~5回照射することが多いのですが、がんの種類で合計の照射回数は変わります。
陽子線治療では、2016年以降小児がんや前立腺がんなどが公的医療保険の対象となり、2022年には肝臓や膵臓がんなどが追加されました。重粒子線治療も2016年以降、骨軟部腫瘍や前立腺がんが、2022年には肝臓や膵臓がんなどが対象となっています。保険対象になり患者の費用負担が軽減し、全国で治療を受けた患者は2023年度に1万人強と、保険適用の2015年度と比べ2倍超に増えています。 2024年6月、新たに早期の肺がんが陽子線と重粒子線の両方で保険適用になりました。肺がんは全体の9割を占める非小細胞がんのうち、病気の進行度を示すステージが1~2Aの患者が対象です。体力が低下し手術が難しい高齢者や、喫煙による慢性閉塞性肺疾患(COPD)や間質性肺炎で肺機能が下がった人が粒子線治療を受けます。陽子線の場合10~22回、重粒子線は1回か4回当てるのが一般的です。
(2024年12月7日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)