粒子線治療の可能性

がんの治療は、手術、薬物療法、放射線治療の3つが基本です。放射線治療は、手術の負担に耐えられない高齢者や、切除が難しい部位にがんができた人に適しており、手術後の再発。転移を防ぐ目的でも実施されます。切除が難しいがんが見つかった時、有力な選択肢となる粒子線治療です。
粒子線は放射線の一種です。その中に重粒子線や陽子線があり、炭素イオンや陽子などの粒子を加速させ、狙ったがんをたたきます。エネルギーの集中度を高め、ピンポイントで照射できます。がん周辺の臓器への影響も最小限に抑えられます。この治療の設備があるのは、国内で陽子線17か所、重粒子線5か所、両方可能1か所です。
しかし、消化管は粒子線に当たると穴が開くなど、損傷を受けやすいとされています。腹部や骨盤内には消化管が集まっており、がんの部位によっては、粒子線治療を断念せざるを得ない場合もあります。この治療に伴う患者の負担を減らすために開発したのが、ネスキープ療法です。粒子線を遮断・低減する効果に加え、手術で使う縫合糸と同じ材料のため、半年余りで水や二酸化炭素に分解されてしまいます。

ネスキープは、昨年12月に医療機器として公的医療保険の対象となりました。しかし、粒子線治療でこの保険が使えるのは、前立腺がんや頭頸部がんなどに限られます。それ以外は先進医療として自費と保険診療の併用となります。ネスキープの使用は、日本放射線腫瘍学会の指針に基づき、研修を受けた外科医と放射線腫瘍医の連携などが条件となっています。

(2020年4月5日 読売新聞)
(吉村 やすのり)

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