血液や臓器などのがんを患う男性を放射線や抗がん剤で治療した場合、精巣の精子を作る機能が低下します。薬の種類や放射線の量により、一定期間がたてば機能が回復する例もありますが、精子数が減少したり、無精子症になったりする人がいます。直腸がんなどの手術時に神経が傷つき、射精障害が起こる可能性もあります。自分で射精した精子を凍結保存し、必要なときに解凍して体外受精させれば、子を得ることが可能になっています。
思春期以降ならがん治療前に精子を凍結保存することができますが、精通を経験していない思春期前の子どもでは、精子を採取することができません。小さな子どもに対しては、精巣組織の凍結が必要となります。しかしこれまで精巣組織を凍結した後、精子を造り出すことは出来ませんでした。最近、横浜立大などが未熟な精巣組織の一部をいったん凍結し、解凍後に培養皿で成熟させて精子を作る方法を考案し、ネズミで確かめています。この方法がヒトでも可能になれば、小児にも応用できることになります。
小児の場合は課題が多く残ります。成人と比べ診断からがん治療開始までに費やせる時間が短いため、直ちに治療を開始しなければならない症例が多いことです。倫理面でも、年齢から不妊という状況を本人が理解できず、実施の可否を判断できないこともあげられます。そのため両親の同意を得ることが必要となりますが、自分の子どもの命にかかわるガンの治療にあたって、子どもの将来の生殖機能の温存まで考えることができない状況も十分に考えられます。今後はがん治医と生殖医療専門医が連携して、小児のがん治療にあたることが必要となります。
(2015年3月13日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)