わが国は世界でも極めて珍しい夫婦同姓を法律で義務付けている国です。江戸時代以前は家と家をつなぐ政治的・経済的契約としての側面が強く、明治時代には、家制度として法制化されました。戦後の民法改正で家制度は廃止されましたが、結婚制度は、経済的相互扶助、次世代育成の基盤、社会的承認の帰属の獲得手段としての役割を果たしてきました。しかしこれらの伝統的役割は大きく変容してきています。
海外に目を向けると、国によっては結婚に関する様々な制度が存在します。フランスの婚姻制度は、マリアージュ(婚姻)のほか、日本でいう事実婚に近いユニオン・リーブル(自由な結びつきの意)や日本にはないPACS(連帯市民協約)があります。パックスは共同生活のために交わされる契約で、裁判所での手続きが必要です。婚姻と違い相続権はありませんが、税務上の優遇が受けられます。1999年に同性カップル対策として制度化され、異性カップルにも広がりました。
異性婚でもパックスを選択する理由としては、フランスでは婚姻のしばりが重いからです。市役所で挙式をして意思確認することが求められるほか、夫婦で財産を共有するかどうかの選択などの法的手続きがあります。離婚時には双方弁護士を立て、子どもの処遇や夫婦で共有する財産の清算、離婚給付などについて確認しなければなりません。一方、パックスは一方の通告や合意による契約破棄ができます。女性の経済力の高まり、婚姻によって守られることが重視されなくなり、パックスを選択するカップルが増えています。
近年、わが国では経済力のある女性が結婚を選択しなくなってきています。性別役割分担意識が強く、結婚によって家事育児などのシャドーワークを義務付けられるような社会の圧力や慣習があります。自力で生きていける女性たちが婚姻を回避するのもやむを得ないかもしれません。
わが国での紙切れ一枚で成立する協議離婚制度は、西欧では考えられないような簡便な方式です。また離婚における財産分与が低額で、離婚後の経済格差を補えるものではないのです。元夫にきちんと養育費を支払わせるようにする公的介入も貧弱です。そのため、日本の母子家庭の貧困率が高いのは、女性の非正規雇用が多い労働市場のあり方に加え、民法の規定にも責任があると思います。
1996年に法制審議会が選択的夫婦別姓の導入を答申しましたが、今も実現していません。今回の総選挙後の国会議員の多数が選択的夫婦別姓に反対の立場を取っており、旧姓の通称使用の法律化で良いとする機運が高まっています。結婚する権利は基本的人権ですが、自分の意に反して名前を奪われないというのも同様だと思います。
フランスでは婚姻後も別姓が原則で、同姓にする場合は逆に配偶者の姓を名乗る権利を行使します。子どもをどちらの姓にするかは親が決めますが、決まらない場合は両方を併記し、本人が大人になってから選択できます。日本でもパックスのようなパートナーシップ制度を導入しても良いと思いますが、それよりも選択的夫婦別姓の導入や婚姻の効果を重くする見直しの方が喫緊の課題だと思います。
(吉村 やすのり)





