2002年にWHOは、緩和ケアを生命を脅かす病に直面した患者と家族を対象に、痛みなど身体的な苦痛に加え、心理的、社会的な辛さや、死と向き合う苦しみを早期に見い出し、和らげるケアと位置づけました。緩和ケアが必要な成人を疾患別でみると、がんは3分の1で、他は心不全や慢性閉塞性肺疾患(COPD)などが占めています。認知症の人へのニーズが急増するという研究もあります。
しかし、わが国では、緩和ケアの対象はがんという考え方が根強くあります。ケアが手厚い緩和ケア病棟の入院対象が、主にがん患者に限られてきたことなどが背景にあります。しかし、高齢化が進む中、がん以外の病気での必要性が高まり、国は、2018年に末期心不全患者に行う緩和ケアの一部を公的医療保険の対象に加えました。
がんは、比較的最期まで身体機能が保たれるのに対し、心不全などは、悪化と回復を繰り返し、認知症や老衰では、ゆっくりと身体機能が低下するとされます。呼吸困難などの症状の緩和には、もとの病気への治療が効果的とされ、緩和ケアと並行して行われます。がんと同様、必要な時は医療用麻薬も使われます。がん以外の患者でも、亡くなっていく人の苦痛を取り除ける体制作りが求められます。
(2022年8月14日 読売新聞)
(吉村 やすのり)