日本の義務教育は、同年齢の子を一斉に入学させ、学習内容が定着していなくても決まった時期に卒業させる履修主義をとっています。一律・平等の重視は、教育水準を底上げした一方、横並びで硬直的な学校生活を生み、子どもの個性に合った指導を難しくしています。この日本の履修主義は、コロナ禍で大きなひずみを露呈しています。休校による授業時間数の不足を、夏休みを短くしても補いきれない状況に陥っています。この間に生じた生徒の学習進度の差に応じたきめ細かい指導まで手掛ける余裕はみられません。
一方、欧米では、目標の達成度に応じて進級を決める修得主義をとっています。修得主義は、一人ひとりに応じた学びを実現する土台にもなります。就学や卒業の時期、留年や飛び級も本人や保護者が選ぶことができます。教育課程は教員が決め、個に合わせた指導が可能となります。
技術革新や国際化の加速を背景に、教育課程は拡大の一途をたどっています。教科書の厚みも増し、指導日程が一段と窮屈になっていたところに休校が発生しました。履修主義が重荷となり、短期間で大量の指導ノルマをこなす必要が出てきています。9月入学移行に合わせ、義務教育の開始年齢を欧米の一部と同じ5歳にする案も考えられています。わが国においても修得主義を取り入れようとする動きが出てきています。義務教育での飛び級や留年、9月入学移行は、社会的な影響が大きなものがありますが、コロナ禍を契機に日本の義務教育制度を抜本的に見直すことも大切です。
(2020年7月8日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)