老年的超越とは

 老年的超越とは、高齢期に高まるとされる物資主義的、合理的な世界観から宇宙的、超越的世界観への変化をいいます。自分が宇宙という大きな存在につながっていることを意識し、死の恐怖が薄らいだり、他者を重んじる気持ちが高まったりする状態です。超高齢の人は、ひとりでいてもさほどに孤独を感じず、できることが減っても悔やまないようになり、周囲への感謝の気持ちが高まってきます。成功や達成感を重視する若い頃とは異なり、穏やかな幸福感です。
 多くの人は、高齢になっても体力や認知機能を保って社会参加する生き方を望み、心身の若さを維持しようと努めます。しかし、超高齢ともなればいつか限界がきます。年齢が高くなると、運動機能や認知機能は低くなります。しかし超高齢になると、老年的超越といって幸せ感を得やすくなります。100歳以上の長生きをする人は好奇心が旺盛、社交的、几帳面といった特徴があるそうです。これらの性格は、老年的超越に直接には結びつかなくても、長寿をとげることを通して幸せ感につながっている可能性はあります。また年齢に伴って、心身の能力が落ちていくことを否定的に受けとめすぎないように、心の状態が幸せ感を感ずるように自然と変化してゆきます。健康を失い、ベッドで寝たきりであっても幸せでいることはできます。老いることを不幸ととらえて、いつまでも自立しなければと思いがちな人は、老年的超越は得られにくいようです。老年的超越は求めて得られるものではありません。
 超高齢者がもつ特有の幸せ感を踏まえて、お年寄りを支える側が新しい視点を持つことが必要になります。接するお年寄りには、仲間の集まりに誘ったり、運動するようすすめたりしがちです。しかし、じっとしていて孤独のように見えても、本人は穏やかで豊かな気持ちでいるかもしれません。元気で頑張ってくださいといった励ましは、押しつけすぎるとかえって本人の幸せ感を邪魔してしまうおそれもあります。北欧など海外では、施設の介護スタッフらに老年的超越について学んでもらい、介護を必要とする入所者への接し方を改善しようという取り組みが始まっています。

(2018年2月7日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)

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