労働基準法67条には、育児時間の規定があり、生後1年未満の子どもを育てる女性は、1日2回、少なくとも30分ずつ、子どもを育てるための時間を請求することができるとしています。この時間を搾乳に充てることも可能です。しかし、企業に搾乳室の設置を求める法律はありません。授乳期に復帰する女性社員は、会社全体の中では数が少なく、育児と仕事の両立で忙しいので声をあげにくい状況にあります。
国際労働機関は、2000年の母性保護勧告で、職場またはその近くに適切な衛生状態の下で哺育するための施設を設置することに関する規定を設けるべきとしています。日本の企業も、搾乳や授乳スペースを設けるべきです。企業内保育所があれば授乳もできるようになります。同時に、搾乳のために仕事を一時抜けることに対する周囲の理解も不可欠です。授乳期は母乳で胸が張ってくるので、仕事などで子どもと長時間離れる場合は、定期的に搾る必要があります。母乳が排出されずたまると胸が硬くなって痛みます。乳腺炎になり、インフルエンザのような高熱や悪寒、倦怠感が生じることもあります。
搾乳室の条件や設備は、清潔でプライバシーが確保される空間であることが必要です。椅子と机のほか、手や搾乳器を洗う水道や、自動搾乳器を使う場合のコンセントなどもあると便利です。冷凍・冷蔵庫があれば母乳を保存し、持ち帰って子どもに与えることもできます。
搾乳室の設置は、男性の育休取得促進とも関係しています。2022年10月施行の改正育児・介護休業法で、男性が子の出生後8週間以内に最大4週間取得することができる産後パパ育休を導入しました。従来の育休も2回に分割可能になり、夫婦が交代で休むなど柔軟な活用が想定されます。母親が早期に復帰するケースが増え、搾乳のニーズがより高まる可能性があります。
(2023年1月23日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)