日本で出生数減少が加速しています。子どもを持ちたい若者が社会的な要因で希望をかなえられないとすれば、それを取り除くことが必要となります。2021年の調査では、依然として男女とも8割以上は結婚するつもりがあります。しかし、少子化の何が問題かと言うと、結婚や子を持つことを望むのに、経済・社会的な要因から諦める人が多いことが問題です。結婚せず働く人生を理想と考える未婚女性は12%に過ぎませんが、実際そうした人生を歩むという予想は33%に跳ね上がっています。理想と現実のギャップを埋める必要があります。
2010年代半ばから保育所の整備が加速しましたが、少子化は止まりませんでした。働きながら子育てできる環境は、対策の前提として不可欠でした。しかし経済環境の悪化や女性が出産すると、仕事で不利になりがちな雇用環境といったマイナスの影響が大きかったと思われます。少子化は経済問題でもあります。児童手当の所得制限撤廃などが議論されていますが、賃上げや雇用の正規化などで若い世代の生活を安定させ、より良い未来を提示することが大前提となります。
年間出生数が120万人から100万人割れするまでに18年ありましたが、100万人から80万人を切るまではたったの7年でした。1990年代には毎年120万人程度が安定的に生まれていました。この世代が出産期に入る今後10年間が少子化に歯止めをかける最後のチャンスです。選択的夫婦別姓や同性婚を認めるなど、多様な家族のあり方を尊重する政策を進めれば、未来へのイメージは前向きに変わります。日本社会は今後、劇的な変化を迫られます。
(2023年5月25日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)