日本の研究力はどんどん低下しています。国際的に影響力がある自然科学の論文の数は、1990年代末の4位からずるずる下がり、2016~2018年には9位まで後退しています。これは、人口が2千万~3千万人台のカナダや豪州よりも少ない状況です。論文の総数そのものも、10年前と比べ、米中英独といった主要国の中で唯一減っています。
そのため、政府が、国内外の株式や債券に投資した運用益を大学に配る10兆円規模のファンドを創設するとしています。大学はこのお金を原資に、若手研究者のポストを確保したり、高価な設備をそろえたりして、研究しやすい環境を目指そうとしています。
国立大学は、2004年に法人化されて、民間企業のような運営ができるようになりましたが、国から渡される運営費交付金は減り続けました。そのため、若手研究者は、十分な給与を得られなかったり、安定したポストが減ったりして、研究者になる魅力が薄れてしまっています。博士課程への進学率も年々減少しています。
博士課程の大学院生の処遇はまだまだ悪く、年180万円以上の収入があるのは全体の1割に過ぎず、研究どころか生きていくのも精一杯な状況です。こうした不安定な立場を改善しようと、政府は将来的に民間や大学からも出資を募り、年3千億円ほどを支援に回したい考えです。これとは別に博士課程に進学する大学院生約1千人に、1人あたり年最大250万円を支援する制度も始めます。
(2021年2月18日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)