金融庁によれば、2014年時点で金融資産全体の7割を、60歳以上の世帯が保有しています。認知症患者数も増え続け、保有する金融資産額は、2030年には215兆円に達する見通しです。現在、判断能力が衰えた預金者への対応は、各金融機関の現場で個々に判断しているのが実情です。預金者の認知能力を見極めるのは難しく、不正な引き出しなどを警戒する銀行は、預金者が認知症になったと判断すると、本人の資産を保護するとして、口座からの引き出しを事実上凍結する場合があります。家族からは本人の施設入居費など必要なお金を引き出せないといった不満が多くなっています。
全銀協は、認知症などで判断能力が低下した高齢者の預金について、引き出し時の銀行界統一の考え方を示すことになっています。本人の意思で引き出すのを原則としつつ、本人が意思を明確に示せない場合でも家族関係が確認でき、施設からの請求書などで使途が確かめられれば、引き出しや振り込みに柔軟に応じることにしています。高齢化で認知症患者の金融資産が増えるなか、銀行業界は、預金の安全性保護と顧客の利便性向上との両立を探っています。
(2020年3月11日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)